AnotherWorldCup
2002夏:佐谷恭

少林足球

中国では、ちょっとした繁華街を歩くと「VCD」と書かれた店がたくさんある。これは「ビデオCD」と言われるもので、パソコン等でも映像を見ることのできる、とても便利な代物なのだが、コピーが容易であるため、日本では著作権の問題もあり、ほとんど見かけることはない。
VCDは著作権などあまり気にしないような国々で広まっており、前日に封切られたような最新の映画が、 50〜200円ほどで購入できる。ソフトのほとんどは「映画館で」撮影されているようだ。時折、頭の影が画面を横切ったり、ポップコーンを食べる音、咳払いなどが聞こえたりする。
映画館に行くより安い。しかも、外国映画でさえも、当該国で封切られたばかりのものを茶の間で楽しむことができる。最近でこそ、WTO加盟やらで少々取締りが厳しくなったと言われているが、店の中の不自然なカーテンを開けたり、半開きの引出しをひいてみると、すぐに見つけることができる。

昨年、「酒の旅」のゴールを新潟で迎えてくれたけよう嬢が、今年は天津港で迎えてくれた。すばらしい旅仲間だ。
彼女に伴われ、昨年に引き続き天津の友人宅を訪れた。昨年は旅のテーマに合わせてたくさんのビールで出迎えてくれた友人は、今年は、一枚のVCDで迎えてくれた。タイトルは「少林足球(邦題:少林サッカー)」。

映画の内容は極めてクダラナイ。しかし、ものすごく笑えた。
サッカーをしている風だけれども、サッカーとは無関係。子ども騙しだけど大人も楽しめる。サッカーと少林寺の両方を賞賛しているのかと思いきや、どちらも馬鹿にしている。この映画監督は、おそらく見る人をも馬鹿にしている。
しかし、面白い。面白すぎる。

「もう一つのワールドカップ」を標榜して旅を始めた僕は、中国でいきなり壁にぶち当たった。今まで訪れたどこの国の、どこの地域でも、道端でサッカーをする少年少女、そして中年のおっさんを見ることができた。しかし、中国では全くそうした光景を目にしない。国技として指定され、ワールドカップ出場にまで至っているのに、一般には「サッカーをプレーする」ことには関心が
及んでいないようにも思える。日本から持ちこんだFEVERNOVAはその活躍の場を見出せずにいた。
しかし、一枚のVCD「少林足球」は、中国サッカー界を変えた。というわけはないが、僕が中国でサッカーをすることに自信をもたらした。この映画をネタに、人民とサッカーをしてみようじゃないか!

そう思った僕は、少林寺へ行くことにした。洛陽からオンボロバスに乗った。途中、雨が降り、嵐になり、オンボロのバスは車内ですら水浸しになった。しかし、僕のテンションは最高潮!身体から湯気が湧き立っていた!

少林寺に着いた。
付近には少林寺武道スクールがあり、映画やテレビで見たような橙色の布をまとった拳法家がたくさんいる。雨の降りしきる中、バスから飛び出した僕は、橙色のかたまりの中にサッカーボールを蹴りこんだ。飛んできたボールに驚いた一群はそれを避けようとしたが、映画で見た彼らとは違って、動きが緩慢な彼らはボールを避けることはできなかった。それどころか、当って怒った一群は僕に詰め寄ってきた!
「#%$&#@*・・・!」
彼らの言うことはほとんど理解できなかったが、僕はにこやかに「少林足球」の説明をし、理解を求めた。僕がガイジンだと分かると怒るのを止めたが、僕の趣旨については全く分かってもらえなかった。有名な映画について繰り返し説いた。中国語がつたないせいもあると思い、大袈裟なジェスチャーまで混ぜた。努力も空しく、彼らの対応は最後まで冷たかった。

「我々はテレビや映画など見ないし、足球なるものに全く興味はない」
ショックだった。サッカーができなかったこともさることながら、話しに全く乗って来ない彼らにうちのめされた。あの映画で見た「熱さ」は、一体どこに行ったのだろう。

敗北感を背に、僕は少林寺を離れた。


けよう嬢
◆「少林足球」是非!

 

初勝利!

ずぶ濡れで少林寺からホテルに戻った。
どしゃぶりの雨以上に、少林寺の僧侶たちのサッカーに対する態度が寒かっ たが、鉄くさい赤い水のシャワーを浴び、ロシア戦に備えた。宿泊していたのは、18元の安ドミだった。
同室の人と一緒に観戦するために多人房(ドミトリー)を選んだのだが、部屋どころかフロア、いやホテル自体に人気がなく、一人寂しくテレビをつけた。
一日ずぶ濡れのまま過ごしたからか、少林寺拳法にしてやられたためか、身体が冷えて仕方がない。虚しさすら感じながら、広い部屋にある小さなテレビを凝視していた。

試合は嬉しい結果になった。
稲本のゴールで身体が再び熱くなり、湯気が出た。試合終了のホイッスルが鳴ると、FEVERNOVAと日本代表のユニフォームを持って、僕は洛陽の町に飛び出した。

町は静か過ぎた。
日本がロシアに勝利したことなど、全く関係がないような感じだ。しかし、ここで引き下がるわけには行かない。活気のありそうな居酒屋に思いきって飛びこんでみた。

青のユニフォームはとても目立つ。
店に入った瞬間、一気に注目を浴びた。FEVERNOVAを持っているのを見ると 奥の客が大声で叫んできた。
「よくやった!」

彼らは試合の結果についてよく知っていた。ロシアを破ったことについては、 とても高く評価してくれた。中国隊(チーム)は勝てそうにないから、近隣の日本・韓国の活躍が嬉しいと言う意見が大勢を占めた。店中が、突然現れた珍客を英雄視してくれた。
10あるテーブルに、僕は順番に呼ばれた。どこのテーブルでも、勝利を祝っ てくれ、乾杯の嵐が店に吹き荒れていた。

日本の勝利を心から祝ってくれる姿勢。
この姿にいたく感動した。そして、この初勝利の経験を経て、僕は再び中国人民とサッカーを楽しむ決意を新たにした。

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