AnotherWorldCup
2002夏:佐谷恭

宿の探し方(1)

中国では宿探しをする必要はない。探さずとも、向こうから勝手にやって来るからだ。
列車やバスを降りると、たくさんの客引きに出遭う。あまりに数が多いので前に進むことはできないし、ふと気づくと後に戻ることもできなくなっている。やむを得ず、足を止める。そして、自力で宿探しをすることを諦め、客引きの話に耳を傾ける。

十数名の客引きは、それぞれが担当するホテルのことを勝手に喋り始める。複数の情報が同時に飛び交う。聖徳太子じゃあるまいし、何を言っているか分からない。しかも中国語、である。
客引きの勢いに飲まれてはいけない。話を聞いているような顔をすると、それぞれの客引きが自分の言葉を客に届かせようと、さらに大きな声で騒ぎはじめる。その騒ぎは蜂の巣を突つくどころではない。突ついて、落として、踏みつけたような大騒ぎである。

「多人房。25元まで!」
こうした状況に対処するのにいい方法がある。それは、話を聞かず、客引きに自分の希望を強く押しつけることである。とにかく大声で安い値段を連呼する。交渉の余地は残さず、条件に満たない客引きにはお引取り願う。一歩も引いてはならない。一歩でも引くと、交渉ノ余地アリと思われて、たくさんの客引きが戻ってきてしまうのだ。

客引きが2、3人になったところで、値切り交渉を開始する。部屋のグレードを上げてもらう。自分で値段を決めるようなものなので、ボられることもないし、立地がよく満足度の高い宿に格安で泊まるには、この方法がベストなのである。


◆中国では、ぜひこの手で宿探しをしてください。
◆1元=15〜16円です。
◆多人房(どぅれんふぁん)…中国語で「ドミトリー(大部屋)」を意味します。

 

宿の探し方(2)

驚くことに、深夜3時の吐魯番(トルファン)にさえ、宿を紹介する客引きが存在した。ちょっとしたミスで、バスターミナルでもなんでもないところに降ろされてしまったにも関わらず、闇の中から客引きが現れたのである。途方に暮れていた僕は救われた思いがした。中国での宿の探しやすさを象徴するような出来事であった。

しかし、やはり例外もある。
大都市では客引きが少ない。初めての訪問では土地鑑もないので、どの辺りに行けば安宿があるのか、想像もつかない。烏魯木斉を訪れたとき、完全にハマってしまった。
バスを降りても、誰も話しかけて来なかった。やむなく途中で出会った旅人が持っていたガイドブックの切り抜きを頼りに2つのホテルを訪れた。しかし、開発の波にのまれたこの街では、古い地図は役に立たない。目当ての宿があるはずの場所には「建設中」の看板が立っていた。
しばらくアテもなく歩き回ったが、一泊150元以上のホテルしか見つからない。歩き疲れた頃、あることを思いついた。烏魯木斉には旅行社が多く、様々なツアーが企画されている。宣伝のビラや名刺が配られ、積極的に営業活動が行われている。これを利用すればいいのだと直感した。そこで、勧誘するスタッフに従って、ある旅行社を訪ねることにした。

旅行社は主にツアーの斡旋をしたがる。値切ることさえ忘れなければ、自分一人で行くよりもいろいろなところへ安く行けるのがツアーのいいところだ。しかし、時間的な拘束が厳しいため好きなところに留まることはできないし、行きたくないところまで連れて行かれるので、満足度はかなり低くなる。今回の旅においても、洛陽から少林寺へ行くのにツアーバスを使い、後悔した。目的の少林寺には満足な時間がさかれないばかりか、無名で何の面白みもない観光地に次々と連れて行かれ、時間と精神を浪費した。

いかなる理由であれ、ツアーには絶対に行きたくない。経験から、これだけは譲れなかった。旅行社の持つホテル情報は欲しいし、宿代を安くするためには彼らが持つホテルへのコネを利用したいのだが、どうしよう・・・。
宿についての情報を求めると、ツアーを申し込めばホテルにかけあって宿代を安くしてくれると言う。彼らの提示する宿はいわゆる「安宿」ではなく、値引き額は僕が自分で交渉するよりは遥かに安いので、2〜3泊もすればツアー代を払ってもお釣りが来るぐらいお金をセーブできる。しかしこの時点ですべきことは、高めの宿に安く泊まることではなく、出費を最小限に抑えることだ
った。数日後にはカザフスタンへ向かう予定であり、さらに両替するのを避けるためには、宿代を安く抑えるのはもちろん、ツアーなどに払う余裕はなかった。それよりなにより、残り少ない貴重な時間を退屈なものにするつもりはなかった。

僕は慎重に交渉を始めた。ツアーに興味がありそうなことをほのめかしつつ、長旅での疲れを取るまでは先の予定を決めたくないと主張した。ツアーの利用が前提だと頑なに言い続けるスタッフたちを説得し続け、ついにはその会社の社長まで引っ張り出し、泣き落とした――「ツアーをどうするか真剣に考えるためにも、この疲れた身体を休めたい。まずは宿を紹介してくれ」。
社長の鶴の一声で、僕はきれいな中級ホテルに連れていかれた。小さなソファーとゴージャスでお湯がたっぷり出るバスルームつきのツインルーム。それで40元と破格の安さであった。

宿さえ決まればこっちのもんだ。そう高をくくっていたが、実際はこれからが問題だった。まずチェックインした直後、担当者が部屋まで入りこんで来てツアー紹介を始めた。「疲れている」という言い訳は受け入れてくれなかったので、「シャワーを浴びる」と言ってひとまず追い出した。シャワーを浴びた後も用心のため3時間ほど昼寝をし、それから部屋を出た。しかし、ロビーには3人のスタッフが僕を待っていた。「お腹が減っちゃって・・・」という苦しい言い訳でひとまず近くの食堂に逃げ込んだものの、しばらくすると隣の席に座り、料理の感想などを尋ねてきたので、落ちついて食べることもできなかった。
困った挙句、「明日話そう」と提案をすると、案外素直に受け入れてくれた。旅行社から逃げるため、その晩はいくつかの宿を当たってみた。しかし、どこも「安宿」というのにはほど遠く、お金をあまり使えない現状にふさわしい宿はなかった。結局、紹介されたホテルに戻ったのであった。

翌朝、部屋の前には予想通りスタッフがいた。今日は2人だ。動揺を隠すため、ものすごく明るい声で「おはよう!!!」と挨拶をし、向こうが話しを始める前にホテルから脱出した。近くを走るバスにとりあえず駆け乗った。完全に逃げきれたと思い、ホッとして街を歩き始めた。
昼過ぎ、見知らぬ男から声を掛けられた。好奇心からその男に近づいてみると、例の旅行社の社員だと自己紹介され、ツアー内容を決めるために社に来るように言われた。逃げた。数時間後、前日に旅行社で見かけた女性に道端で出くわした。また逃げた。夕方、カフェにいると旅行者のマネージャーが隣に座ってきた。どうやら完全にマークされているらしい。
僕はその度に「約束があるから」とか「破れたズボンを買いなおさなきゃいけない」と言い訳をしたり、無理矢理に振りきって逃亡を繰り返した。

しつこい追手を何度もかわして、数日後、なんとか無事にカザフスタンへ向かう列車に乗り込むことができた。くだらないツアーにお金を使わずに済んだ。素晴らしい宿に格安で泊まれた。
しかし、常に旅行社から逃げ続けていた烏魯木斉での日々は、常にイヤな緊張感に包まれていた。どこへ行っても落ち着けず、逃亡中の犯罪者のように周囲を過剰に気にしながら過ごしていた。


◆この手の宿探しはオススメしません。
◆アジア諸国で安宿に泊まると、まずシャワーはついていません。また、少し高めの安宿には稀にホットシャワーつきのところもありますが、湯量が少なく、結局は水で身体を洗うことになります。

 

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