AnotherWorldCup
2002夏:佐谷恭

ラグマン大好き

中国新疆に世界一うまい麺料理がある。

その名はラグマン。羊肉と季節の野菜をたっぷりのトマトで煮込んだスープを、うどんに似た麺にぶっかけたものだ。
即席麺を世界で初めて作った安藤百福氏もこの麺を求めて新疆へ向かったと言う。ミートソースの起源という説もあり、その味は全ての人を唸らせる。ラグマンの名は中国語の拉麺から来ていると言われるが、僕は逆だと言いたい。
ほのかに甘く柔らかい羊肉の食感とトマトの酸味が絶妙にマッチしていて、とてつもなくうまい!季節の野菜をふんだんに使っており、栄養も満点である。旅の疲れなど一気に吹き飛ぶし、身体を温め、心を癒してくれる。

初めてラグマンを食べたのは数年前、天津のムスリム街でのことだった。厨房から流れてきた不思議な香りに魅かれて店に入り、強い火力で熱された中華鍋の上で踊る羊を見た。トマトで真っ赤に染まったスープに口を付けた後、一度も顔を上げぬまま完食した。自分でもそのことに驚いたが、それほど感動的にうまかった。

「ウイグル人は1日に3食ラグマンを食べても飽きない」と言う話がある。僕自身に関して言うと、1日4食ラグマンを食べても、全く飽きることはなかった。
新疆、最高! ラグマン、最高!

◆そんなにうまいの?と気になる方は連絡ください。うちでごちそうします。

 

ラグマン大嫌い

中央アジアの旅はタフだ。
カザフスタンの旧都アルマトィでは、それを象徴するような日々を過ごした。

列車の駅を出ると待ってましたとばかりに警官が話しかけて来た。パスポートとビザをなめるように見て、いちゃもんをつけてくる。流れるようなロシア語は全く聞き取れないが、とにかく金を出せと言われているようだ。こちらに非はないので相手にしたくないが、なかなか解放されない。いきなり1時間も無駄な時間を過ごした。
旧社会主義国では、警官は人民を取り締まるために存在した。治安の維持は主業務に含まれていなかったようだ。現在でもその名残は残っており、警官は助けを求める存在ではなく、接触を避けるべき存在に思える。警官を見つけたら、目を合わさないのが得策である。

旧ソ連の国々ではレジストレーション(外国人登録)という不可解な制度がある。国によってそのやり方は違い、国籍によって要求される事項が異なる。また制度の変更が周知されるのに時間が掛かるため、担当者によって解釈も異
なる。カザフスタンの場合、入国日から3日以内に招待状を発行してもらった旅行代理店に依頼をすることになっている。やっとの思いで代理店を発見し、レジストレーションとビザの変更を依頼したが、冷たくあしらわれた。
日本で高い金を払って取得したビザはなぜか商用ビザだった。ダブルビザの観光ビザを依頼したが、シングルの商用ビザが発給された。「ビザ発給担当者の気分」によるものだから「仕方がない」というのが日本にあるその代理店の支店の主張であったが、「こちらでは何ともできないので」、「現地に行けばなんとかなる」という言葉を受け入れざるを得なかった。
ところが、なんとかなるどころではなかった。無料でできるはずのレジストレーションや、先方のミスにより止むを得なくなったビザのステータス変更に関して、法外な金額を請求されたのである。数時間に亘ってしつこく交渉し、先方の非を繰り返し指摘した結果、旅行社と僕とで費用を折半することになった。法外ではないが余計なコストがかかることになった。ビザ等、決められた手続きは旅行者には絶対に必要だから、ある程度以上は強気に出られない。その足元をすくうような旅行社の対応は許せないが、そんな気持ちよりやるせなさが残った。

精神的にヘトヘトになったまま宿探しをした。社会主義国の無機質な町並みは、旅人の勘を狂わせる。安宿のにおいがしない。かなりの距離を歩き、肉体的にもくたびれてしまった。
なんとか400テンゲ(約400円)の宿を見つけた。汚いのは慣れっこだが、じめじめしてるのと、室温が低すぎるので溜め息が出た。
居るだけで苦痛な宿はすぐに飛び出し、食べ物を求めて街へ出た。雲行きが急にあやしくなり、痛いほどのどしゃぶりの雨が降った。水はけの悪い道路は発展途上国のさがである。あっという間に水が溢れ、くるぶしの上ぐらいまで浸った。

大急ぎで近くのカフェに入った。メニューを見ると辛かった気分が一気にふきとんだ。前年、シベリア旅行でわずかに覚えたキリル文字を思い出しながら一文字ずつ読んでみると「Лагман(ラグマン)」と書かれているではないか!

「いただきます!」
「あれ? なんだこれ??」
まずい!新疆のそれと同じネーミングを持っているし、使われている食材はほとんど同じである。しかし、アルマトィで食べたラグマンはこの世の食べ物とは思えないほどまずかった。油がぎとぎとで、味付けもなっていない。気分は再び深く深く沈んだ。

新疆のラグマンはうますぎた。その印象があまりに強かったので、「ラグマン」の文字を見ると注文したい気持ちを抑え切れなかった。しかし、この日以来、どこで注文しても本物のラグマンには出合えなかった。期待はいつも裏切られた。
タフな中央アジアの旅は、本物のラグマンに対する強烈な思いがゆえに、さらにタフなものになった。

カザフスタン・アルマトィに世界一まずい麺料理がある。
その名もラグマン。

ラグマンは新疆に限る。


◆カザフ以西のラグマンは許せん!

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