ブラッドフォード大学大学院 体験記
(MA in Peace Studies, University of Bradford)

イラクでの日本人誘拐事件


イラクで日本人3名の誘拐事件があった。
この事件は「平和のためにできること」を始めたきっかけである昨年11月の日本人外交官殺害事件と同様のインパクトがあり、かつ、同様の危険性を抱えていると思う。

◇ ◇ ◇

「テロリスト」からの声明が報道されるとき、「○○と名乗る組織」などという言い方がよくされるが、これは事件を起こした対象をつかめていないことを意味している。「テロとの戦い」がテキサスの田舎者ブッシュ大統領により高らかに宣言されて以来、このような事例は後を絶たない。何も考えずになにげなく新聞記事を読んでいると「テロリストの仕業か」と単に読み流してしまいそうだが、「われわれ」を攻撃しているのは誰であるのか全くはっきりしていないのである。
「テロリスト」という組織や国家は存在しない。我々にとって見えない脅威を与える対象を便宜的にテロリストと呼んでいるだけである。この点で「テロリスト」は北朝鮮などと全く異なる。北朝鮮はそこに見えているが、「テロリスト」はどこにも見えていない。「テロリスト」とは望んでも対話や交渉はできない。

このはっきりしないものを敵に指定してから、世界は大きく変わった。事件の犯人は証拠でなく推測で裁かれることになった。それを見ている方は推測を繰り返し聞かされるうちに、その推測を事実だと感じるようになった。脅威は誇張された。攻撃は証拠の提示に先立った。その攻撃に対する妨害はそれ自体が脅威だとされ、証明できない正義を補完する役割を担った。

すべては曖昧なままだ。「テロリスト」と戦っているという言い方がそれを象徴している。我々を狙うのは誰だ?わからない?それならどうやって対策を立てるのだ。福田官房長官は「政府として人質の解放とイラク在留邦人の保護、テロ防止に全力を挙げる」と述べたが、対象がはっきりしない今、邦人保護以外の二つはどう実現できるのだろうか。

◇ ◇ ◇

犯行声明で、日本人3名を誘拐した「テロリスト」は、「自衛隊の撤退」を要求している。
テロに屈しないと言い続けている政府は「自衛隊は人道支援をしに行っているのだから撤退する理由はない」と言っている。しかし、この発言には嘘が含まれている。航空自衛隊は米兵の輸送も行っているからだ。しかも、先日から治安の悪化を理由に宿営地以外での活動を停止している。今、自衛隊は何も支援をしていない。
百歩譲って「撤退する理由はない」としよう。では、派兵する理由は明確だったのか。派兵の前提となった占領に正義はあったか。不正義の占領に手を貸すのは不正義ではないか。

すべてはごまかしながら進められてきた。それなのに、そのことを考え直すことだけに理由が必要とされるのは奇妙である。曖昧さをどこかで是正しなくては、いつまでも状況に流されるばかりだ。撤退は屈することとは違う。撤退したらそれで終わりなのではなく、明確な理由を持ってまた来ればいい。自衛隊の(一時)撤退は今イラクでも一番危険な状況にある邦人を保護する最良の手段である。「テロリスト」から3名を殺害する「理由」を取り除くのだから。

◇ ◇ ◇

日本政府が今までのように曖昧なまま物事を進めていくことを望まない。3名に万が一のことがあった場合にそれを政治目的=議論のすりかえに利用されることを僕は恐れている。


BEEMANet平和研究センター

Copyright (c) 2000-2004 BEEMANet All Right Reserved.